タイトル

「世界を、その掌に」

− The world is yours −



武装した機動隊員が、合図とともにドアを蹴破り、アジトに踏み込む。
ゲリラも慌てて武器を取ろうとするが、

機動隊員 「全員動くな! 妙な真似をすると撃つ! 武器は床に捨てろ!」

青年 「ちっ! もう嗅ぎ付けてきやがったのか!」

機動隊員 「大人しくしてろ! 逮捕で済ませてやる。どういう理由かは知らんが・・・、本来ならこの場で射殺されても文句は言えんのだぞ」

青年 「みんな、抵抗するな! お優しい事に逮捕で許してくれるらしいぞ・・・」

機動隊員 「上からのお達しなんでな。ふン。・・・お前がリーダーか?」

青年 「そうだ」

ライフルの柄で殴りつけ、

機動隊員 「連行しろ!」


城とも言える立派な屋敷。その一室に、兵隊に連行される青年。

青年 「痛えなっ、畜生! 丁重に扱いやがれ」

国王 「丁重に扱って欲しければ、馬鹿な真似はやめろ」

青年 「おやおや。国王様自らお出ましですか」

国王 「いい加減にしろ。セグメントや議会駐在軍に対する武装集団とテロ行為。お前のやっている事は第一級犯罪だ」

青年 「だったら牢にでもブチ込めよ」

国王 「お前が世継ぎでなければそうしている」

青年 「誰が継ぐか。俺のやってる事が第一級犯罪なら、アンタは特級犯罪者だ」

国王 「私の何が犯罪だと?」

青年 「国民の税金でセグメントや議会に尻尾を振ってる事だよ。アンタは宇宙移民者が苦しんでいるのをのうのうと見てる」

国王 「私からくすねた金で革命ごっこをしておいて、言えた立場か。我が国は火星で最も裕福だ。私は宇宙移民より自国民を優先する」

青年 「ああ、そうかい。自分たちさえ幸せなら、他は知った事じゃねえってか。反吐が出るぜ。裕福だってのなら、なんで議会から独立しない!?」

国王 「政治のいろはも知らん小童が。独立など掲げれば、たちまち国ごと潰される。それとも、武力で立ち向かい、人類の半数を死に至らしめた愚行を繰り返したいのか!?」

青年 「飼い殺されるよりは、噛み付いて死ぬね。そのために俺は学んできた」

国王 「わずかばかりの兵隊経験と、傭兵仕事。それでちんぴらを集めて革命家気取りか。自覚がない分、やくざより性質が悪い」

青年 「やくざなアンタの息子だからな」

国王 「まだ反抗期のままか。お前のやっている事はただのお遊びだ。本気で情勢を変えたいのならば、国王の座を継いで変えれば良かろう」

青年 「アンタに染められるのはゴメンだね」


王子の部屋。

執事 「殿下、少し頭を冷やされませんと」

青年 「うるさいよ。お前は俺と親父のどっちの味方なんだ?」

執事 「わたくしも陛下も、殿下の味方でございますよ」

青年 「ったく。また1からやり直しだ。親父のやつ、他のゲリラよりまず俺を潰しに来やがる。まさかお前が密告してるんじゃないだろうな」

執事 「滅相もない。ですが、最優先して潰すのは至極当然でしょう。次期国王がセグメントや議会に叛意を抱いていると知られれば、この国に未来はありませんから」

青年 「だから縁を切ってる」

執事 「周囲はそう思いません。4年も代役で国民を騙している陛下の気持ちもお察しになられては」

執事の見せる新聞には、青年そっくりの身代わり。

青年 「不良息子は出てったって発表すりゃイイだろ」

執事 「殿下。殿下はあまりに陛下に似ておいでです」

青年 「はァ?」

執事 「わたくしにはその正義感の強さが身を滅ぼしはすまいかと、心配でございます」

青年 「年寄りの話は長くなりそうだ。ここにも用はないし、失礼させてもらうよ」

執事 「殿下・・・」


屋敷を出ていこうとする青年に、声がかけられる。

団長 「お久し振りです、殿下」

青年 「ああ。久し振りだ。よく俺がわかったな」

団長 「出来の悪い生徒でしたからな。覚えもします」

青年 「コイツ・・・」

青年 (こいつは、この国の自警団団長。自警以外に軍備を持てない我々の、数少ない武力をまとめている。俺の、兵役時の上官でもある)

団長 「時に、殿下がガラの悪い連中とつるんで、悪さをしているという噂は本当ですかな」

青年 「説教ならさっき散々聞かされた。今度にしてくれ」

団長 「説教でなければ、聞いてくださいますかな?」

青年 「どういう・・・」

団長 「議会とセグメントの圧政、もはや捨て置けません」


場所を変えたらしく、人気のない部屋。

青年 「驚いたな。アンタは完全に国王派だと思ってた」

団長 「誤解なされないで下さい。私は今でも国王派です。国王は議会やセグメントの犬どもを懸命に払っておいでです。それも、非暴力という立派なお志で」

青年 「はいはい」

団長 「ですが、もはやそれも限界」

青年 「限界?」

団長 「火星で最も裕福なセツルメント。そこに、意のままにならない国王ですから、そのお命が狙われています。犬どもは殿下の身代わりを擁立してこの国を乗っ取る算段」

青年 「穏やかじゃないね」

団長 「叛意は国王の意に背きます。ですが、伏魔殿では国王をお守りし続けることが危うい有様。このままではもう・・・」

青年 「それで・・・、団長・・・」

団長 「殿下を旗印に、クーデターを起こします」

青年 「・・・ッ!」


暗い、パブらしき店。

青年 (自警団という一国の武力。今までとは段違いだ。あるいは成功するかも知れない・・・。だが、それは甘かった。いや、甘過ぎた)

クーデター成立までが止め絵で表される。

青年 (俺を擁立してのクーデターは、行動からわずか3日で完全に鎮圧された。完膚なきまでに)

そして、鎮圧までが止め絵で。

青年 (それも、国自体に叛意があると見なされ、自治失権という最悪の形でだ)

青年 (遠かれ近かれ、こうなったかも知れない。だが、俺は間違いなく、その執行日を決定付けた人間だった)

悔しそうに、だが、敬礼して青年を逃がす団長。

青年 (不幸中の幸いは・・・、団長が俺の代役の身柄を確保していた事。団長の計らいで、俺は生き延びた。身代わりになって死んだ代役には悪いが・・・)

団長の傍らに、射殺された代役。TVがニュースを映している。

アナウンサー 「自警団が起こしたクーデターは、完全に制圧されました。死亡したクーデター首謀者は、自警団団長である・・・」

青年 (挙げられる名前の中に、俺の名前はなかった。むしろ、俺の代役が殺された事で、クーデターは、セグメントや議会に対してではなく、祖国に対するものとされ、団長は完全な悪役にされちまった)

団長の顔がTVに映される。


人気のある大公園。蒔かれた号外が一部、青年の足元へ。それには、国王の写真。

青年 (数日もしないうちに、衝撃的なニュースが国内を駆け巡った。国王・・・、親父が死んだのだ。死因は服毒自殺)

青年 (責任を取っての自殺、テロリストの残党の仕業、自治失権を完全なものとするための謀殺。・・・色々な噂が流れた)

青年の前に現れる執事。

執事 「殿下・・・、あのような事件がありませんでしたら、陛下とお呼びするべきかも知れませんな」

青年 「お前、よく無事で・・・」

執事 「陛下からの、最期の贈り物でございます」

青年 「・・・親父の・・・」

執事 「陛下のお志を継ぎませよ」


青年 「受け取ったキャッシュ・カードには、莫大な金が振り込まれていた。それこそ、新しくセツルメントを建造出来るほどの・・・」

青年 (親父の死の真相は、間違いなく自殺だ。謀殺だと匂わせるための自殺・・・。団長たちが言ったように、親父は内心に叛意をしたため続けていたのだ・・・)

青年 (実際に、この事件を機に、セグメントや議会に対する不満はその目を吹き出した)

青年 (自らをエクレシアと名乗る反乱軍の誕生だ)

青年 (俺は、この莫大な遺産を使って、エクレシアを支援しようとした)

青年 (だが、エクレシアを支援する金持ち連中どもに、俺はきな臭いものを感じ取った)

青年 (ユニオンJ・・・。それが、エクレシアを、いや、セグメントや議会すらも影から操っている・・・)

青年 (親父が、戦おうとしたのは・・・)

青年 (戦わなければならない敵は・・・)

青年 (違うやり方で。もっと違う方法で。・・・あるはずだ。必ずユニオンを引きずり出す。引きずり出して潰してやる)


マトリックス。

クルー 「艦長、見てくださいよ。コレが夕焼けってヤツですかぁ。・・・艦長?」

ボッシュ 「んあ?」

クルー 「艦長が居眠りとは珍しい。まあ、ここの所、緊張続きでしたしね」

ボッシュ 「ああ。すまん。で、何だって?」

クルー 「夕焼けです」

ボッシュ 「ほお」

クルー 「起こしちゃって悪かったんですが、その価値はありました?」

ボッシュ 「まあな。・・・火星しか知らない親父達にも見せてやりたかったね」

クルー 「そういや、艦長から家族の話を聞いた事ありませんね。やっぱり海賊だったんですか?」

ボッシュ 「いや、最強のインテリやくざだな。いや、非暴力テロリストか」

クルー 「はははっ、なんですそりゃ?」

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