タイトル

「世界の終わり」

− The end of the world −



自室でペンを走らせるシャヒーナのモノローグ。

シャヒーナ 「伝説の救世主は、舞い降りた・・・」

シャヒーナ 「人が、宇宙に移り住むようになって、255年・・・。」

シャヒーナ 「地球は、私たち宇宙移民者にとって、羨望の大地だった」

シャヒーナ 「人が住むのに地球は狭すぎる、と講釈を垂れた政治家は、体よく人々を宇宙へと追いやり、自分たちだけが地球に居座る」

シャヒーナ 「それが、地球と宇宙に、長い争いの歴史を紐解かせた・・・」


シャヒーナ 「続く戦いに疲弊した人々は、地球は地球・・・、宇宙は宇宙・・・、それぞれ別の道を歩むことで和解した」

シャヒーナ 「だけどそれは、新たな争いの種でしかなかった」

シャヒーナ 「独立自治権を得た宇宙移民者セツルメントは、次第に富める者とそうでない者の格差を広げ、いずれは特権社会を生み出していった・・・」

シャヒーナ 「再び圧制の時代が訪れる・・・。それは、支配者が地球にいるか、宇宙にいるか、という差でしかない」

シャヒーナ 「人間は、愚かしい歴史を繰り返す。だけどそれは繰り返すのではなく、自分だけは同じ轍を踏まないと信じて、車輪の後を走っているのだ」


シャヒーナ 「地球に住む特権階級者は、ただ、富を貪り続けた」

シャヒーナ 「宇宙に住む特権階級者セグメントは、地球に搾取される以上の搾取を、労働者に強いる」

シャヒーナ 「力あるものが力のないものを虐げ、虐げられるものは、より力のないものを虐げ、虐げられる事しか出来ないものたちを生む。・・・いずれ、虐げられるしかない不満は爆発する」

シャヒーナ 「労働者の中にも、知識人や成功者はいる。彼らは、力のないものが協力して蜂起すれば、革命が起こせること事を教える。それもまた、轍の上の話だ」

シャヒーナ 「力のないものたちは、エクレシアと名乗り、反旗を翻した。これが、セグメントとエクレシアの抗争。・・・その小さな声は、次第に大きな声へと変わる。宇宙のあらゆる場所で、その戦火は広がっていった」

シャヒーナ 「エクレシアに賛同するものは、労働者だけでなく、セグメントの中にもいた。パーノッド派と呼ばれるセグメント内派閥だ」

シャヒーナ 「セグメントは多く、地球に対して媚を売ることで、甘い汁を吸おうとする。それがリカード派。逆に、地球の持つ特権を我が物にしようと、エクレシアを焚きつけているのがパーノッド派」

シャヒーナ 「気に入らないやり方だけれど、彼らの強力をなくして、エクレシアの存在もまた、有り得ない」

シャヒーナ 「各地で繰り広げられるゲリラ戦」

シャヒーナ 「そこに、突如として、救世主が現れた。文字通り、救世主は舞い降りた・・・」


シャヒーナ 「エクレシアの広告塔で予言者と呼ばれるナディアが告げる、伝説の救世主・・・」

シャヒーナ 「これまで幾度も、反逆のシンボルとして、劣勢から勝利に導いたと言われるマシン・・・G」

シャヒーナ 「そんな迷信に頼るようでは、未来はないだろう。だけど、救世主は奇跡を見せつけたのだ」

シャヒーナ 「正体不明のマシンは、そのとんでもない戦力で、セグメントを圧倒」

シャヒーナ 「エクレシアは、その勇姿に歓喜した・・・。救世主ある限り、敗北はない、と」

シャヒーナ 「得体の知れない救世主に期待するほど、民衆は疲弊していたのかも知れない・・・」


シャヒーナ 「セグメントにしてみれば面白い話ではない」

シャヒーナ 「だが、それを面白がっている連中もいた」

シャヒーナ 「地球が持つ最大の軍事組織、議会軍」

シャヒーナ 「セグメントがエクレシアと拮抗した瞬間、地球は、セツルメントの再統治と言う大義名分を笠に着て、再び宇宙を自らの支配下に置くべく、その重い腰を上げた・・・」

シャヒーナ 「結局の所、地球という名の飴玉に群がるものたちと、その支配下から逃れたいものたちの戦争は、熾烈になって行かざるを得なかった」

シャヒーナ 「そんな時、わたしは赤毛の少年に会った・・・」


シャヒーナ 「名前はアベル。あの伝説の救世主と呼ばれるマシン・・・Gのパイロット」

シャヒーナ 「アベルは、わたしと同じように、戦災孤児だと言った。多分、それは嘘ではない」

シャヒーナ 「アベルは、自分たちと同じような戦災孤児を作らないため、戦争がない世の中を作るため、そして、支配者のいない世界を作るため、マシンを駆ると言う。それは、間違った事じゃあない」

シャヒーナ 「だけど、アベルはあまりにも無知で、あまりにも正しすぎた」

シャヒーナ 「正論で貧困が救えるなら、誰もパン一枚の為に人は殺さないのだから」


シャヒーナ 「それだけじゃない。アベルが属するグレイゾンという組織は、不可解な部分が多すぎる」

シャヒーナ 「何故、少数にも関わらず圧倒的な戦力を有しているのか? 何故、表だった組織ではないのか? 何故、エクレシアに味方するのか?」

シャヒーナ 「アベルは盲目的に組織のことを信じているけれど、わたしには胡散臭い組織にしか見えない」

シャヒーナ 「ドクターは、アベルの情操をコントロールするため、わたしの協力を要求した」

シャヒーナ 「ダグラス長官や艦長は・・・、わたしを訝しんでいる・・・。もっとも、わたし自身はスパイのようなものだから、無理もない」

シャヒーナ 「パイロットの面々は、明らかに何かを隠している」

シャヒーナ 「アベルに知られてはいけない何かを、笑顔の裏に隠し持っている」

シャヒーナ 「要するに、アベルはその正義感と能力を、彼らに利用されているに過ぎない」

シャヒーナ 「知らないのは多分、アベルと、その妹のユーニスだけ・・・」

シャヒーナ 「ユーニスも、グレイゾンからすれば、いわば人質のようなもの・・・」

シャヒーナ 「その事実に、アベルは気付くだろうか・・・? よしんば気付いたとして、その後はどうするつもりなのだろう」


シャヒーナ 「アベルは組織を疑っていない。組織の中で育てられたのだから、無理もない。だけど、自分の信じる正義と、組織の求める行動、組織に求められる行動に、歪みを感じ始めている」

シャヒーナ 「そして、歪みが生じていることを、組織は知っている」

シャヒーナ 「いずれ、アベルの正義と、組織の思惑は大きな食い違いを生む」

シャヒーナ 「そうなれば、Gを造り上げた組織のことだ。アベルは殺人機械のように洗脳されかねない」

シャヒーナ 「アベルが気付くのが先か・・・、それとも、組織が動き出すのが先か・・・」

シャヒーナ 「もし、アベルが先に気付いたとして、アベルは選択を強いられるだろう。全てを承知で、それでも組織の飼い犬になるのか、それとも、全ての過去を振り切って、ここを抜け出すだろうか」


シャヒーナ 「そして、その時は、遠くないうちに訪れた・・・」

シャヒーナ 「アベルは全てを知り、そして、組織から脱出することを選んだ」

シャヒーナ 「それは、運命から逃げることではなく、運命と戦うことだと決意して・・・」

シャヒーナ 「望まない結果とは言え、妹、ユーニスを犠牲にしても・・・」


シャヒーナ 「肉親を失う痛みは、わたしも知っている」

シャヒーナ 「アベルが、このまま戦いのない世界に逃げ込んだとしても、わたしはアベルを責めないだろう」


青空。

のどかな田園プラントの風景。

停車する安物の車。運転席にシャヒーナ。助手席にいた男が車を降り、シャヒーナに話しかける。

アベル 「シャヒーナは来ないの?」

シャヒーナ 「ユーニスに嫉妬されるから。・・・これ」

供物を渡すシャヒーナ。

アベル 「・・・わかった」


大きな樹の下。

おそらく、アベルが自分で作ったと思われるユーニスの墓。

アベル 「久しぶりだね。ユーニス」

アベル 「また、しばらく来られなくなると思う」

アベル 「ごめんね」

アベル 「・・・ごめん」

アベル 「もう、繰り返させないから・・・」

アベル 「じゃあ、行くね」


車の方に戻ってくるアベルを、運転席のシャヒーナが迎える。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送