ケーラー 「私が感じたのは、まさに畏怖だった」

ケーラー 「わかるだろうか? 戦闘などにはまるで興味のない私が、その光景に見入ってしまったのだ」

ケーラー 「旧型のマシン、旧型の装備、そして、多勢に無勢・・・。劣悪な環境は全て整っていた。この戦闘に巻き込まれた私は、死を確信しても不思議ではない」

ケーラー 「だが、私は恐怖など微塵も感じなかった。それどころか、敵を蹴散らす彼に恐怖を抱き、いや、憧憬さえも抱いた」

ケーラー 「私の知は、比類なき、絶対的な暴力に屈したのだ」

ケーラー 「それまで、知を最大の力として生きてきた私のアンデンティティを崩壊させるには、充分な事件だった」



タイトル

「ゆりかご機関」

− Cradle organization −



ケーラー 「だ、大丈夫なのかね? この研究サンプルは、何があっても無事に届けねばならんのだぞ・・・」

エドガー 「あんたの仕事は心配する事でも不安がる事でも、文句を言う事でもない。研究サンプルとやらが逃げ出さないように見張ることだ」

ケーラー 「しっ、しかし、あの海賊どもは我々にしつこく食いついて・・・」

エドガー 「それをどうにかするのは、俺の仕事だ」

ケーラー 「だが、このままでは奴らの・・・」

エドガー 「いいか。二度は説明しない。連中は、このプレッシャーに耐えられず、こっちが進路変更をするのを待ってる。見えてる敵だけが敵だなんて思うんじゃない。キャプテン、生き残りたかったら、先生の言うことは聞かない方がいい」

ケーラー 「なっ、君は・・・!」

エドガー 「連中は、こっちが誘いに乗らなければ、仕掛けなきゃならないポイントがある。その直前で出鼻を挫けばいい」

ケーラー 「そ、そんなことが簡単に・・・」

エドガー 「簡単とは言ってない。生き残るのにベストな方法を撰んだだけだ。・・・そろそろ行くぜ」


ケーラー 「そう言って出撃した彼は、まさに悪鬼の如く戦った・・・」

ケーラー 「その数、40対1・・・。狂気の沙汰だった。海賊のマシンも最新鋭ではなかったが、彼のマシンは、それよりも旧式だった。・・・だが、そんな事は問題じゃなかった・・・」

ケーラー 「彼は、単なる暴力がいかに絶対的な存在であるかを私に見せつけたのだ」


ケーラー 「結果として、私は超成長ジーンのサンプルを地球へとはこびだす事に成功した・・・」

ケーラー 「しかし、これ以降の私は、超成長ジーンに対する賞賛など目もくれず、ただ、私の手で、あの男エドガー・パウエルを超える存在を、私の手で造り上げる事だけに専念した・・・」


ケーラー 「エドガー・パウエル。42歳。最強の傭兵。最大のワンマンアーミー、一人だけの一個師団、ミーン・マシンと呼ばれる」

ケーラー 「まさに、バケモノだった。・・・彼は驚いたことに、アルビノで、遺伝子的に決して恵まれていた訳ではない」

ケーラー 「あまつさえ、彼の放つ脳波はJACを操る事さえない」

ケーラー 「彼は、新人類でもなく、超人類でもない。ただ、圧倒的に強いだけの、ただの人間だったのだ」

ケーラー 「私の作ったブーステッド・マンが、彼に勝てぬ道理はない。そう思っていた」

ケーラー 「私は私の立場を利用して、私が作ったブーステッド・マンを、彼と対決させた」

ケーラー 「結果は、見るも無惨なものだった・・・。彼に適うどころか、彼の装甲にかすり傷一つ付けられなかったのだ」

エドガー 「あんたかい、先生。あんたが、俺の強さに理屈を求めている以上、あんたは絶対に俺を超える兵士を造れない。絶対にだ」


ケーラー 「私は、私の立場を利用して、およそ馬鹿げた提案をした。・・・本当に、およそ馬鹿げた話だ・・・」


AJ 「ドクター・ケーラー。あなたは、一体・・・」

ケーラー 「お前さんの野望に手を貸すと言っているんだ。遺伝子工学最高の知力が味方に付くんだ。悪くはあるまい」

AJ 「願ってもない・・・。何が望みです?」

ケーラー 「望みなどない。私は宇宙で一番強い兵士を作りたい。君はそれを利用すればいい」

AJ 「なるほど・・・。ドクターが付くなら、お互い、予算は今よりも出ますね」

ケーラー 「そういう事だ。お前さんは、その最強の軍隊を我が物に出来る・・・。ホセに一泡吹かせたいんだろう?」

AJ 「滅多なことを・・・」


ケーラー 「私は、あらゆる角度から最強の兵士を作ることを考えた」

ケーラー 「先天的な資質を持つ者、後天的な資質を持つ者、その両方、私がゼロから作った者・・・」

ケーラー 「勿論、スカウトも続けた。世界中から、エースパイロットを引き抜いて、その能力を確かめた」

ケーラー 「だが、これには期待した結果は得られなかった」

ケーラー 「めざましい結果を出したのは、赤ん坊の時から育てた者ばかりだ」

ケーラー 「失敗だらけだった最初からすると、私にとっての第三・第四世代は、満足に値する結果を出してくれた・・・」

ケーラー 「選出された第3世代は3人。エナ・ミア・カインだ」

ケーラー 「第4世代は、ザカリア・アベルのみ」

ケーラー 「第5世代はユーニスのみ」

ケーラー 「だが、悲しいかな、この内で私がゼロから作ったのは、アベルとカインのみ」

ケーラー 「エナ・ミア・ザカリアは、デザインド・ベビーではあるものの、その遺伝子を張本人、エドガーから採取しているのだ」

ケーラー 「そして、驚いたことにユーニスは、非デザイン」

ケーラー 「まぁ、実験に大して望んだ結果が出ないのは、科学者なら通過儀礼に過ぎない」

ケーラー 「そして同時に、予測される出来事が起きる事も・・・」

ケーラー 「現在、エドガーに最も近い存在はカイン。基本的にはアベルと同じ遺伝子を持っているが、カインはそのブーステッド・マンだ」

ケーラー 「そして、最も遠いのがユーニスだが、これは別だ」

ケーラー 「興味深いのは、ザカリア。エドガーの遺伝子に細工したミア・エナとは違い、ザカリアはエドガーのコピーだ」

ケーラー 「遺伝子のコピーはアナログである以上、データを必ず劣化させる・・・。ユーニスを除けば最も弱いザカリアだが、実戦ではアベルよりも戦果を上げている」

ケーラー 「実に、面白い」


キャロライン 「ドクター・・・。アベルの脱走、どう責任を取るおつもりですか?」

ケーラー 「私に責任を問うても無駄だよ。私の仕事は最強の兵士を造り出す事だ。その管理じゃない」

キャロライン 「・・・あなたは・・・ッ」

ケーラー 「なに、問題はない。ザカリアがアベルを越えてくれるなら、私は私の責任を果たしていることになる。むしろ、問題はダグラスの方だろう?」

キャロライン 「・・・あなたは、アベルの反乱を予測していましたね」

ケーラー 「私は科学者だよ。あらゆる予測はする。結果にはいつも振られるがね」


ケーラー 「実戦で実力を付けつつあるザカリアを、自分の意志で戦い始めたアベルが倒したのなら、アベルは・・・。私はようやく、エドガーの前に立てる兵士を作り出したのだ」


エドガー 「邪魔するぜ」

ケーラー 「き、君は・・・」

エドガー 「俺を倒せるような人形を作ったらしいじゃねえか」

ケーラー 「期はまだ満ちていないが、そのつもりだよ」

エドガー 「思ったより、早い目覚めだったなァ。・・・冷凍焼けするぐらい放置されるかと心配してた。一晩寝たにしちゃ、身体はちょっとなまったがな」

ケーラー 「なに、十数年も君が老いるのを見ていられないからね。強い君を超えてこそ意味がある」

エドガー 「俺を騙して、冷凍のままミンチにすればあんたの勝ちだったんだぜ。最大のチャンスを逃したなァ」

ケーラー 「最大じゃない。最大のチャンスはこれから来るんだ」

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送