ナレーション 「時に宇宙世紀256年。支配層と被支配層の争いは熾烈を極めた。その戦いの中で、多くの戦士達が死に、そして生き残った者たちは、新たなる戦いの舞台となる地球へと降り立った」



タイトル

「海上の死闘」

− Fire in the sea  −



地球に降り立ち、海上を飛ぶマトリックスのブリッヂ。

 ボッシュ 「ふう。・・・広大な景色はイイが、操舵も含めて、どうにも慣れンな。地球上ってヤツは。身体も痛い」

 AJ 「地球は初めてか。無理もないな。むしろ宇宙に人が棲む事の方が不自然のはずなんだがね」

 ボッシュ 「その不自然を生み出したのが、この戦争の根源かもな」

 AJ 「大義名分ではそうなるな。現実はそうじゃない。全ては人間の飽くなき欲求が生み出す・・・」

 ボッシュ 「欲の塊のアンタに言われると、説得力があるな」

 AJ 「厳しいね」


マトリックス。廊下。窓から景色を見る二人。

 ケネス 「っひょう。イイ眺めだねえ」

 シャヒーナ 「・・・ええ」

 ケネス 「そんな浮かない顔すンなって。アベルなら無事だよ。あのモンスターマシンが守ってくれてるしな」

 シャヒーナ 「だといいけど」

 ケネス 「下手な慰めのつもりじゃない。俺にゃ、アベルが無事だって自信がある。心配なのは、どっちかってーと、迷子になって泣きそうになってないかってコトだ」

 シャヒーナ 「・・・そう。そうね」

 ケネス 「さすがに何処に落ちたかもわからんし、こっちの行き先も決まってる。うまく合流できるかって事までは保証しないが。・・・案外、アベルのことだ。お前さんの心配を余所に、地球の景色にはしゃいでるかもな」

 シャヒーナ 「どれも簡単に想像出来るわね」


水平線の向こう。アベルが不時着した南海の島。リゾート地ではないが、完全に南国の海。

 アベル 「水平線・・・。やっぱり何度見てもスゴいな。空も、あんなに高いし・・・」

アベルの背後から呼びかける声。

 アーティカ 「アベルくーん」

 アベル 「あ、はーい。何ですかー? アーティカさーん」

 アーティカ 「朝食ー、用意できたわよ」

 アベル 「あ。はいっ、すぐに戻りまーす」


アーティカ宅。見るからに南国の木製のログハウス。

 TV 「気象情報に続きまして、今、地球の安全が問われる、防衛衛星陥落についての特集です」

 アーティカ 「それにしても、このニオイ、せめて食事中ぐらい何とかならないモノかしらね」

 アベル 「確かにスゴいニオイですよね。まあ、あの質量の死骸ですから当たり前なんでしょうけど。この日差しだし」

浜に打ち上げられているクジラの死骸。

 TV 「・・・政府の発表によると、防衛衛星の破壊による被害は甚大で、いまだ現在、正式な死傷者の数は発表出来ない状況にあると・・・」

 アーティカ 「クジラの死骸は漂着するし、あなたは、あんなのと一緒に落ちて来たしね」

 アベル 「す、すみません。ご迷惑お掛けしてます」

 アーティカ 「あはは。そういう意味じゃないわよ。気にしないで。あたしもまさか、ウワサの救世主に出会えるなんて思ってもなかったし・・・」

 アーティカ 「でもラッキーよね。あのマシンと一緒に降ってきたのが、この海域でも、うまいコト、この場所に落ちるなんてさ」

 アベル 「そ、そうですよね」

 アベル(モノローグ) 【地球に半ば不時着した僕は、地球の大きさに感動していただけじゃなく、少し困惑していた。何しろ、地球の話こそ聞いたことはあるものの、本当のところ、どんな場所なのか、まるで知らなかったからだ】

 アベル 【僕の想像では、地球は議会軍一色で染められているものだと思っていたけど、どうやら違うらしい。むしろ戦争は宇宙での出来事で、地球は概ね平和。アリスタリウス陥落によって、ようやく戦争への緊張感が増した程度らしい】

群集のデモ(地球のアッパークラス)
群集のデモ(反議会組織)

 アベル 【それに、地球にも不法居住者がたくさんいたり、エクレシアのような反議会運動がいくつもあるなんて知らなかった。アーティカさんがラッキーだと言ったのはこのコトで、この海域は議会軍の海洋部隊が駐留している】

群集のデモ(地球の不法居住者)

海上の駐留部隊。

 アベル 【そんな中で僕を拾ってくれたのがアーティカさん。反議会組織のひとつであるパルタガスのメンバーで・・・】

 アーティカ 「ん? どうしたの?」

アーティカの、水着のような服装に改めて戸惑う。

 アベル 「い、いえ、何でもありません」

 アーティカ 「そう? ならいいけど。それにしても、アベル君のマシン、どうすればいいモノかしらねぇ」

 アベル 「動かす分には問題ないんですけど、問題は武装がほとんど全部エネルギー切れで・・・」

 アーティカ 「武器もエネルギーも、目と鼻の先にあるにはあるけど・・・。奪いに行くには武器がない、か。ジレンマよね。あとは、アベル君のお仲間さんがうまいコト見つけてくれればイイんだけど」

 アベル 「地球での第一目的地は決まってるんですけど、何しろ急な地球降下だったんで、随分と違う場所に落ちちゃいましたし・・・。マトリックスも何処に降りたのか・・・」

 アーティカ 「ウチの組織も、手を貸せるほどの武力はない、か。そうそう手だてなんて見つからないものねぇ」


海域駐留部隊。

 司令 「落し物は見つかったか?」

 隊員 「は。先のアリスタリウス防衛戦で落下したと見られる、例の”救世主”ですが、この海域に落ちた事はほぼ間違いありません。ただ、大気圏突入の際に損傷している可能性は高く、最悪、海底に沈んでいるケースも・・・」

 司令 「阿呆か、お前は。マシンを何だと思っている。宇宙で活動出来る機体、それも単独大気圏突入出来るような化け物がこの海域の水圧程度でどうなるものでもあるまい」

 隊員 「は。しかし、全長10mほどのマシンを海底から探し出すのは困難かと・・・」

 司令 「フン。今のところ、レーダーに反応もなければ目撃報告もない。ならば沈んでいると見るのが妥当だろう。何としても見つけ出してサルベージしろ。そうすれば戦闘もナシに大手柄なんだからな」

 隊員 「は、はい。それでは、UZでの捜索範囲を4Lエリアまで広げますか?」

 司令 「ふん。4Lエリアか。原住民やバルバロイが潜伏している区域だな・・・。連中が拾い上げている可能性もあるな。イイだろう。捜索範囲拡大!」

 隊員 「は。そ、捜索範囲拡大」


潜水艦部隊。潜水艦と、その周囲には水陸両用Mマシン、UZが6機。UZのコックピット。

 兵士 「エリア拡大だぁ? 現場を知らない連中は楽に言ってくれるねェ」

 兵士 「ゴチャゴチャ言うな。次のエリアは居住区域だ。捜索ついでにバルバロイを燻り出してもいいという許可が下りている。戦闘の可能性も否めない。気を抜くな」

 兵士 「了〜解」


所かわって、夕闇の街。軍服ではなく私服のルクレール。その姿を確認するように、前に立ちはだかる人物。

 ルクレール 「・・・あなたですか。連絡を寄越して来たのは」

 男 「はい。お時間は取らせませんので」

 ルクレール 「ここであなたを捕縛することも出来るんですよ」

 男 「話を聞いてからでも遅くはないと思いますが。それに、そうしないと思っているからこそ、こうして交渉に」

 ルクレール 「いいでしょう。逮捕ならその後でも出来ます」


地下のバー。少し賑やかな雰囲気に似合わない2人が、カウンターの隅で話している。

 ルクレール 「・・・それで」

 男 「あなたが、セグメント、そしてユニオンに対し不満を持っていることは調査済みです。単刀直入に言って、我々にご強力願いたい」

 ルクレール 「我々・・・とは」

 男 「まだ身分を明かす事は出来ませんが、我々はユニオンの存在を解体するために動いている」

 ルクレール 「つまり、組織を裏切れ、と」

 男 「まあ、そう言うことですね。ご存知の通り、防衛衛星の落ちた今がチャンスです。今ならば腐敗しきったセグメントも、殿様商売で裏から世界を牛耳るユニオンをも一掃出来る」

 ルクレール 「・・・一掃」


バーの賑やかな歓声と雑音。

 ルクレール 「・・・お申し出は有り難い。ですが、卑しくも私はセグメント軍人です。軍人が軍を裏切る事は出来ません。魅力的な話ではありました。しかし、セグメントの腐敗は、セグメント内部から正す事にこそ、意義がある。私はそう考えます」

 男 「スカウト失敗。・・・交渉・・・決裂ですか」

 ルクレール 「誤解しないで下さい。あなた方のやろうとしている事が間違っているとは思わない。我々はそれぞれの思う正しい事をしようとしているだけです。逮捕もしません」

 男 「願わくばセグメントが新体制を築く時、あなたのような人物が中心に立っていて欲しいものです」

 ルクレール 「では、我々は出会わなかった・・・、と言うことで」

 男 「はい。心得ています」


風景は夜の街。男の乗った車を見送るルクレール。

 ルクレール 「ああは言ったものの・・・、目に余る腐敗と巨悪・・・、どう立ち向かえばいいのか・・・。自分にその力や勇気が足りないのかも知れないな・・・」

 シャイロン 「困るな、ルクレール・ミロ副官」

そこに、不意に声をかけられる。慌てて振り向くルクレール。

 ルクレール 「シャイロン・・・チェイ!」

 シャイロン 「私の予定だと、正義感にあふれるキミは、いいかげん軍の腐敗を見かねて反体制派にその身を売ってくれるハズなのだが」

 ルクレール 「なんっ!?」

 シャイロン 「これであの海賊どもに出資している連中の尻尾がつかめる・・・、そう思っていたが、実に残念だ。わざわざキミを泳がせていた意味がない」

 ルクレール 「わ、私はセグメント軍人です。軍を裏切るような・・・」

 シャイロン 「私としても、優秀な副官を失うことは痛手だ。残念だよ」

 ルクレール 「どう言う・・・っ」

ルクレールの背後に黒い影。プシュッという不自然な音と共に、ルクレールが倒れる。

 シャイロン 「まあ、私としては、連中の尻尾をつかみ損ねた事のほうが残念だがね」



アイキャッチ
アイキャッチ「G−GUILTY」


夜の海を飛ぶマトリックス。廊下で空を眺めるシャヒーナに、声が掛けられる。

 ケネス 「よ。眠れないのか?」

 シャヒーナ 「・・・そういう訳じゃないけど」

 ケネス 「何なら、添い寝してやろうか?」

 シャヒーナ 「お願いするわ」

 ケネス 「・・・冗談」

 シャヒーナ 「冗談よ」

 シャヒーナ 「あなたは優しいから、アベルが無事、地球に着いたとしか言わなかったわ」

 ケネス 「・・・おそらくDRESSは切れてる。武器も先の戦闘で使い果たしてるハズだ。いくら無敵のGとは言え、武器もナシに戦えるほど理不尽じゃないな」

 シャヒーナ 「無事だといいけど」

 ケネス 「それでも無事な方に賭けちゃうね、俺は。何なら、添い寝を賭けてもイイぜ?」

 シャヒーナ 「・・・そうね。もし無事じゃなかったら、泣くための胸を借りるわ」

 ケネス 「悪いね。泣いてる女を慰めるのは苦手なんだ」

 シャヒーナ 「女を泣かせるのは得意でも?」

 ケネス 「よくご存知で」


夜の海中。UZのパイロット達。海面にわずかながら顔を覗かせ、島の様子を観察している。

 兵士 「落し物は依然、発見出来ません。目標区域も沈黙したままです。変化はナシ、です」

 兵士 「仕方ない。ミサイルで威嚇。燻り出しを掛ける」

 兵士 「コレで収穫ゼロだったら民間人虐殺ですよ」

 兵士 「許可したのは上だ。場合によっちゃ、アリスタリウスの破片でも墜ちた事にするつもりだろうよ。・・・開始、五秒前! 3・・・2・・・1・・・0!」

ミサイルの群れが島に向かって撃たれる。


爆発音と振動に目を覚ますアベル。アベルの部屋に駆け込むアーティカ。

 アベル 「うわっ」

 アーティカ 「なにっ!?」

 アベル 「この音! ミサイル攻撃です!」

 アーティカ 「どういうこと!? この島を攻撃する理由なんて・・・」

 アベル 「あります。ギルティがここにあるから・・・」

 アーティカ 「駄目よ! 連中だって確証は得てないはず。応戦したらそれこそ思うツボじゃない! それに武器がないって・・・!」

 アベル 「だからって黙って見てられません! 関係ない人が住んでるんですよ!?」

 アーティカ 「アベル君!」

駆け出すアベル。


海面から島を攻撃するUZが、黒い巨大な影を発見する。

 兵士 「うわっ!? 何だと思ったら、こりゃ・・・クジラの死骸!? グロいってか、臭ってきそうなビジュアルだね」

 兵士 「攻撃がないとは言え、遊んでる場合かっ! 包囲網を狭めるぞ」

 兵士 「了解・・・っと、熱源反応!?」

モニタの反応に慌てる兵士。反応の発生源は先ほどの黒い影。

 兵士 「く、クジラの中だとォ!」


クジラの死骸の内部から姿を現すギルティ。

 アベル 「無差別攻撃なんか!」


 兵士 「あ、相手が救世主だろうと水中ならこっちが有利だ! 粉は散布するな! ミサイルで持久戦に持ちこめ!」

 兵士 「わかってるよッ」


浜でビームサーベルを出してミサイルを迎撃するギルティ。しかし、どうにも部が悪そうだ。

 アベル 「相手は水中・・・! センサーが効いててもコレじゃ・・・」

 アベル 「それに、何だか機体が重い・・・。コレが地球の重力なの!? 風の抵抗もある!?」

 アベル 「こんな! 逃げ回ってても・・・。いや、まだ水中の方が宇宙空間に近いかも知れない!」

ギルティ、飛んで水中に潜り込む。


 兵士 「は・・・。ははっ、救世主さんはトンだお馬鹿だぜ。このUZを相手に水中戦とは・・・、飛んで水にいるってかァ!?」


水中のギルティ。動きがあまりにも遅い。

 アベル 「な、なに!? 動きが鈍い!? 水の抵抗がこんなに!?」

 兵士 「動けネエだろ! 手伝ってやるよ!」

四方からのミサイル攻撃に手も足も出ない。

 アベル 「うわあっ!」

 アベル 「くっ、いくらギルティの装甲が強くても・・・。でもどうすれば・・・。武器はサーベルとバルカンしか・・・! サーベルじゃ届かない! バルカンじゃ致命傷にならない!」


 兵士 「よーし、相手は化け物だ。慌てるなよ。ジワジワ攻めろ。空中には逃がさないようにな」

 兵士 「ラジャー」


 アベル 「何か手立ては・・・! そうだっ」


ミサイルの爆発を利用してバーニアを噴射するギルティ。

 兵士 「くっ、爆発を利用して・・・!」

そのまま海面から空中に飛び立つ。

 兵士 「空中に逃れただとっ!?」

 兵士 「それでも! 奴から水中への痛打は不可能! 俺らの有利は動かん!」

そう言った途端、隣で爆発が起きる。

 兵士 「うわあっ!?」

 兵士 「なに!?」

 兵士 「何だとっ!?」

頭部から放ったUZのミサイルが、直後にビームバルカンで撃ち落とされている。

 兵士 「射出直後の・・・ミサイルを狙い撃ち・・・!?」


空中のギルティ。

 アベル 「こっちに武器がないなら、相手の武器を利用するぐらいしか・・・!」


 兵士 「ば、化け物め・・・! どんな・・・! 攻撃をビームに切り替えろ! 海面には出るな! 水面屈折を考慮しろよ!」

 兵士 「は、はい! しかし、6番、4番機沈黙! 1、3番機の損傷は甚大です!」

 兵士 「くっ! ココで・・・、いや、引くしか・・・。糞っ、撤退だ! 奴の所在はハッキリした! 態勢を立て直してもう一度だ!」


 アベル 「ひ、引いてくれた・・・?」


 兵士 「フン・・・。これは戦略的撤退だ。間違いなく奴は孤立無援。手持ちの武器もない。相手がいくら救世主でも、この状況は覆せん!」


浅瀬に立つギルティ。

 アーティカ 「大丈夫? アベル君。随分と苦戦してたみたいだけど・・・」

砂浜に走ってくるアーティカ。コックピットハッチを開いて答えるアベル。

 アベル 「あ、はい。大丈夫です。それより、僕はもうここには居られません。このまま海洋部隊を叩きに行きます」

 アーティカ 「そ、そんな! 無茶苦茶よ! 今だってあんなに!」

 アベル 「このまま留まっても、強力な追撃があるだけです。迷惑はかけられません。確かに武器はないけど、奪いに行くしかなさそうですし」

 アーティカ 「アベル君!?」

 アベル 「すみません、アーティカさん。お世話になりました。奇襲がうまく行けば、改めてお礼に来ます!」

 アーティカ 「アベル君!」


 シャイロン 「さて。気分は如何かな、ミロ副官」

 ルクレール 「ぃ・・・」

 シャイロン 「ふむ。まだ返事も出来ないか」

 ルクレール 「・・・ぅ」

 シャイロン 「私としても、こんな野蛮な真似はしたくなかったんだがね」

 ルクレール 「・・・ぁ」

 シャイロン 「少々難しい注文だったかな。もともと聞き分けのいい優秀な副官だったキミを、もっと従順にするというのは」



次回予告

ナレーション 「孤立無援、武器もなく、たった一人のアベル。まだ慣れやらぬ地球上において、3000の敵との対峙を余儀なくされる。次回、『一騎当千』 Gの鼓動が、今目覚める」

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