ナレーション 「体制勢力、議会・セグメント連合と、反体制勢力、エクレシアの戦いは、膠着状態に入っていた。それは、その陰に潜むユニオンの仕組んだ戦争に他ならない。アベルは、ユニオンの下位組織グレイゾンに利用され、戦い続けて来た」

「その事実に気付いた、アベルの脱走から、半年――」



タイトル

「束の間の、まどろみ」

− A momentary doze −



ぶどう農園。

農場主 「よーし、棟の刈り入れの終わったモンから、今日の仕事は終わっていいぞー」

男たち 「いよーし!」

帽子をかぶった少年が、空を見上げる。帽子の下から覗く顔はアベル。しきりに帽子を触りながら周囲を見渡す。

男 「何をぼんやりとしてんだよ」

アベル 「あ、すみません。ぶどうの収穫って、結構骨が折れるんだなって」

男 「お前みたいなチビはまだイイぜ。こっちはホントに腰の骨が折れる」

アベル 「こ、これでも僕、随分と背は伸びたんですよっ」

農場主 「サボってないで仕事しろよー。日が暮れッちまうぞ」


シャイロン 「静かなものだな」

ルクレール 「地球圏を穏やかにするために、宇宙に火種を蒔いている訳ですからね」

シャイロン 「ミロ副官。相も変わらぬ君の博愛主義は結構だが、発言には気を付けるべきだな」

ルクレール 「嫌な仕事をしているんです。長官相手には皮肉の一つも言わせて下さい」

シャイロン 「いいだろう。部下の皮肉や愚痴を聞くのも上司の仕事だからな。・・・だが、妙な行動までは黙認しない。そのつもりでいてくれ」

ルクレール 「私は卑しくもセグメントの軍人です。リカード大将を裏切るような真似は・・・」

シャイロン 「ならいい」

ルクレール 「しかし、暴動の鎮圧に細菌兵器を使った事が妥当であるとは思えません」

シャイロン 「ロクな武装さえも持たない住民の暴動が一番厄介だ。放っておけばのさばる。かと言って、マシンを出せば虐殺になる」

ルクレール 「細菌兵器なら・・・虐殺では・・・ないと」

シャイロン 「虐殺ではないよ。事故による病原菌の蔓延だ。新聞にもそう書いてある・・・」

ルクレール 「そう書かせました。・・・私が」

シャイロン 「それに、採算というヤツだ。一度開発してしまえば、細菌兵器ならマシンよりも格安になる。安い分、親会社には嫌われるがな。・・・君ももうすぐ将補だ。慣れたまえ」

ルクレール 「慣れれば昇格だというのなら、私は・・・」

シャイロン 「・・・ふン」


シャヒーナ 「アベル、いますか?」

男 「おお、シャヒーナちゃん。アベルなら黙々とぶどうを摘んでるぜ」

シャヒーナ 「そうですか」

男 「おおーい! アベルー!! また嫁さんが迎えに来たぞー!」

シャヒーナ 「・・・・・・」

走ってくるアベル。周囲からは冷やかしの声や口笛。

男たち 「アベルちゃーん」「よー、色男ー!」

アベル 「ふっ、普通に呼んで下さいよッ! だいたい・・・」

男 「まあ、そう怒るなって。後はやっといてやるから、今日はとっとと帰んな」


シャヒーナの運転する車。アベルとシャヒーナ。

シャヒーナ 「どう?」

アベル 「うん。どうにか慣れてきた。ずっと続けるのは大変そうだけど、ぶどう作りも面白いね」

シャヒーナ 「・・・そうじゃなくて」

アベル 「あ、・・・ごめん。はい」

帽子を渡すアベル。

シャヒーナ 「間違いない?」

アベル 「分析するまで、断言は出来ない」

シャヒーナ 「・・・そう。着いたわ」

青空。

のどかな田園プラントの風景。

停車する安物の車。運転席にシャヒーナ。助手席にいた男が車を降り、シャヒーナに話しかける。

アベル 「シャヒーナは来ないの?」

シャヒーナ 「ユーニスに嫉妬されるから。・・・これ」

供物を渡すシャヒーナ。

アベル 「・・・わかった」


大きな樹の下。

おそらく、アベルが自分で作ったと思われるユーニスの墓。

アベル 「久しぶりだね。ユーニス」

アベル 「また、しばらく来られなくなると思う」

アベル 「ごめんね」

アベル 「・・・ごめん」

アベル 「もう、繰り返させないから・・・」

アベル 「じゃあ、行くね」


車の方に戻ってくるアベルを、運転席のシャヒーナが迎える。


ミア 「ちっくしょおぉぉぉっ、まった出し抜かれたっ」

ギルバート 「仕方あるまい。相手側はテロ行為も同然だ。テロを未然に防ぐのは簡単な事じゃあない」

エナ 「連中が狙ってる施設と出現位置を考えれば、充分に予測は可能なはずですよ」

ギルバート 「無理だ。俺は議会軍軍人で、お前らのいうユニオンJとか言う胡散臭い組織の回し者じゃない! 行動は完全に制限されてる」

ミア 「腰抜け」

ギルバート 「なにっ!?」

エナ 「やめなさい、ミア。少佐も。・・・あたし達の戦力がテロ対策に回せれば、少なくとも半分は防げそうだけど」

ミア 「この所、出てくるのはサイファーだけだしね」

エナ 「いくらGの性能が良くったって、一機なら追い詰めようは百もあるでしょうに」

ギルバート 「そんな文句は俺じゃなく、お前らの遊撃隊に言え」

エナ 「まだダグラスおじさまが指揮してるんですもの。ちょっと厳しいかと思いますわね」


AJ 「ここ数ヶ月、ひたすら軍事施設を狙ったテロ行為が続いている。テログループは言うまでもなく、海賊アンセスター・・・ケネス・ハントだ。・・・艦長、続けてくれ」

イヴリン 「・・・ふん」

キャロライン 「幸いな事に、目撃されているのはサイファーとヴォーテックス2機のみ。現在のところ、持ち去られたもう一機、ソードケインは確認されていません」

ザカリア 「ハハッ、あのアベルは戦いがイヤになって引き籠もってるってか」

イヴリン 「アベルでしょ。可能性は少なくないわね」

ザカリア 「アベルが引き籠もるにしたって、ソードケインまで隠すことはないだろうに」

イヴリン 「あの子の事よ。人殺しの道具は嫌いなのよ」

ザカリア 「あーあー、言いそう言いそう。気持ち悪ィ」

キャロライン 「無駄話はやめなさい。・・・これまでの出現範囲から考えて、次と予測されるポイントは2点。Kポイントの議会軍衛星コントロールシステム。Mポイント、セグメント軍事施設。アンセスターは確実に地球側へ降下を始めているものと思われます」

ザカリア 「二手に分かれて待ち伏せが妥当だァな」

イヴリン 「待ってください。ポイントIの施設もユニオンの研究所ですよね?」

キャロライン 「残念ながら計算では、距離が遠すぎるようね。・・・イブレイ隊はKポイント、私の隊はMポイントの防衛に当たります」

イヴリン 「艦長。あたし、ポイントIに行ってみたいんですけど」

キャロライン 「指示には従えないと?」

イヴリン 「まさか。ちょっとの間、休暇を頂けて、その間のマシンの使用許可さえ頂ければ」

キャロライン 「・・・幸い、カインとオルダスの補充がありますから特にあなたは必要ないかも知れません。許可しましょう」

イヴリン 「ど う も」

ザカリア 「・・・怖!」


AJ 「感心しないな。あの遣り取りは」

イヴリン 「それは艦長に言ってください」

AJ 「だが、何故ポイントIだと? あそこは農業プラントを装ってる上に、計算上コースを外れてる」

イヴリン 「艦長にはない、女の勘ですよ。・・・強いて言うなら、ここ半年で狙われてる施設のほとんどが、議会でもセグメントでもなく、ユニオンのものだって事と、・・・行動範囲外だとしても」

AJ 「あの子がいる、と」

イヴリン 「・・・長官、休暇ありがとうございます」


暗い部屋の中に光。アベルのかぶっていた帽子が置かれている。 帽子の中には小さな機械。

部屋の壁には、プロジェクターが映像を映す光。

アーサー 「間違いないね。こりゃ軍事研究施設だ」

シャヒーナ 「こんなに長閑なセツルメントまで・・・」

アーサー 「もともと、長閑な農業プラントを装って作らせたのさ。ここは細菌兵器の研究所だからな。その方が都合がいい。見てみな。アベルの持ち帰った土だ」

シャヒーナ 「この数値・・・」

アーサー 「ここの農作物は、毒にやられた土地でも毒を吸わずに育つように作られてる・・・。こんな研究も兼ねてるのさ」

シャヒーナ 「住民たちは、この事を・・・」

アーサー 「知らないだろうな。もともと、放射能漏れ事故のあったセツルメントを農業用に開拓するって名目で、税金も土地代も格安で提供して住人を集めてる・・・」

シャヒーナ 「・・・そんな事までして・・・」

アーサー 「連中は、やるさ。・・・見てきたとおりだろ」

アーサーが声を掛ける目線の先に、アベル。

アベル 「ビーンさんについて回った半年は、無駄じゃなかったと思ってます」


アイキャッチ
アイキャッチ「G−GUILTY」

アベル 「ビーンさんについて回った半年は、無駄じゃなかったと思ってます」

アーサー 「だろ? 記者の力を見くびってもらっちゃ困るね。いいか? アベル。お前みたいにマシンに乗って戦う人間は必要だ。だが、何が正しくて、何が間違っているかを見極める知恵と知識も必要だ。正義は一つじゃないからな」

アベル 「わかってます。もう、悩んでも迷ってもいませんから」

アーサー 「半年前より、ずっといい顔してるぜ。ケネスたちとの合流が楽しみだな。きっと驚くぜ」


アベル 「半年振りの出撃だね。よろしく」

アーサー 「まあ、研究所は基地じゃないし、農場としてカモフラージュしてるから大した防衛力はない。・・・が、半年振りで、腕が鈍ってないだろうな」

アベル 「大丈夫です。半年振りなのは出撃ですから」

アーサー 「あ?」

シャヒーナ 「あの性格ですから・・・、欠かさず訓練してます」

アーサー 「あ・・・。あー」

アベル 「アベル、ソードケイン、出ます!」

アーサー 「成長してるんだか、してないんだか」

シャヒーナ 「してますよ。少なくとも私よりは」


細菌兵器研究所。

職員 「なんだ!? 警報!?」

職員 「き、聞いてないぞ! ここが襲撃されるなんて事は!」

職員 「警備! 警備に連絡しろ!」


牧場に降り立つソードケイン。逃げる牛。 アベル 「ちゃんと逃げてね」

アベル 「さあ!」


警備 「お、ああ。あ、アレって・・・!」

警備 「例の・・・救、世主・・・!?」


出てくる警備をなぎ払っていくソードケイン。

アベル 「うまく脱出してよ! なるべく誘爆させないから!」

警備をほとんど倒した時、レーダーに反応。

ほぼ同時に近くに着弾。かわすようにして上空へ飛ぶソードケイン。

アベル 「新手!? ・・・コイツ!?」

アベル 「クロスボウ!? パーチさん!?」


イヴリン 「やっぱり、大人しく引き籠もっててくれる訳ないか・・・アベルちゃんは」

アベル 「イヴリンさん!?」

イヴリン 「あら、ちゃんと声だけでわかってくれるなんて嬉しいじゃない」

続く攻撃をかわすアベル。

アベル 「セツルメント内ですよ!? クロスボウの火力じゃ・・・!」

イヴリン 「あはっ、そう思うなら避けないでよね」

アベル 「イヴリンさん! あなたは・・・!」

イヴリン 「あんた、この研究所を破壊しに来たんでしょ? いいじゃないの、手伝ったげてるんじゃないよ」

アベル 「人が住んでるんですよ! イヴリンさんのやってる事は・・・!」

イヴリン 「はン! あんたの愛しのあの子でもいるの? じゃ、もっと派手に焼いちゃおうかしら!?」

アベル 「あなたって人は・・・! 僕に助けられる人を助けろって言ってくれたイヴリンさんは!!」

イヴリン 「だったらあたしを助けなさいよ!」

アベル 「それが! クロスボウなら! 接近戦なら!」

イヴリン 「生意気!」

アベル 「これで!」

イヴリン 「避けない!? ・・・このっ!」


アベル 「その砲身で撃つのは危険です。投降してください。イヴリンさんも、ケネスさんと一緒に来れば・・・」

イヴリン 「嬉しいわね。勧善懲悪なんて・・・。あたしはユーニスを殺した女なのよ? それでもホントに受け入れられるワケ?」

アベル 「恨んでないと言えば嘘になります。でも! 誰かが憎むことをやめなきゃ!」

イヴリン 「そうやって、許してもらった相手の傍で、罪の呵責に耐えながら過ごせるなんて、素晴らしいプレゼントよね」

アベル 「っ! ぼ、僕はそんなつもりで!」

イヴリン 「でも、そう言う事よ。一人の正義は、必ず誰かを苦しめる。・・・それに、言っておくけどケネスは正義感でユニオンと戦ってる訳じゃないわ。復讐よ。個人的な、ね」

アベル 「復・・・讐?」

イヴリン 「それからもうひとつ・・・忘れないで。クロスボウの装備・・・」

アベル 「え?」

イヴリン 「ミサイルもあるのよ」

アベル 「こんなのっ! ・・・ッ!?」

放たれたミサイルが手前で軌道を変え、お互いにぶつかって大爆発する。

イヴリン 「悪いけど」

撤退するイヴリン。

アベル 「煙幕にするなんて!」


キャロライン 「そう。ご苦労様。まだ休暇はしばらく残ってるわ。どうぞ、ゆっくり休んで」

イヴリン 「失礼します」

AJ 「やはり、動き出したか。あの子は」

キャロライン 「サイファー、ヴォーテックスに加えて、ソードケインが敵に回るとなると、捨て置けない戦力ですね」

AJ 「今までは、のさばらせておいてもいずれ補給が絶えると思っていたが・・・。どうやら、ケネスの反乱は根が深いらしいな」

キャロライン 「何か、彼らの後ろに大きな力が加担していると?」

AJ 「あれだけのマシンを修理、補充できるだけのコネクション。それに、情報力だ。そう考えるべきだろう」

キャロライン 「R商会・・・ですか」

AJ 「あるいは、AE社以外の兵器会社・・・」

キャロライン 「・・・まさか」

AJ 「私やホセの存在がある以上、充分にありえるさ」


ザカリア 「よぉッ」

イヴリン 「・・・」

ザカリア 「アベルに負けたって?」

イヴリン 「まだまだ、つけいる隙ならあるわ」

ザカリア 「そりゃ結構。・・・おっかねえの」

イヴリン 「ッッ!?」

エドガー 「邪魔するぜ」

ザカリア 「・・・なんだよ、アイツ・・・?」


エドガー 「ホセが仕事をくれるってんで来たぜ。・・・あんたかい、ここの指揮官は」

キャロライン 「・・・エドガー・パウエル!」

AJ 「早い到着だな」

エドガー 「仕事はもっと速えぜ」

AJ 「あなたに片付けてもらいたい障害物がある」

エドガー 「先生さんから聞いてるよ。手こずってるらしいじゃねえか」

AJ 「厄介だよ。あるいは、あなた以上にね」

エドガー 「面白い。やらせろ」


アーサー 「せっかく住み慣れてきたところだったが・・・」

アベル 「仕方ないですね」

アーサー 「いいのか? 妹さんのお墓に挨拶しなくて」

アベル 「昼間に済ませました。ね」

シャヒーナ 「・・・・・・」

アーサー 「ならいい。ソードケインが見つかる前に移動するぞ」

アベル 「はい。・・・行こう、シャヒーナ」

シャヒーナ 「・・・ええ」




次回予告

ナレーション 「ついに姿を現す、新たなる敵カイン、そして、エドガー。アベルとケネスは、その圧倒的な力の前に苦戦を強いられる。そして・・・。次回、『参戦』 Gの鼓動が、今目覚める」

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