廃棄されたくらいセツルメントに小型艇が到着。

兵士 「最果てよりの長旅、ご苦労様です。同志ハン・パーテーカル」

ハン 「挨拶はいい。早く案内してくれ」

ハンの手には、ディスク・カートリッジ。

兵士 「ハッ。こちらです」

ハン 「いよいよ、か・・・」


兵士 「この、奥になります」

ハン 「ああ、審判の鉄槌が振り下ろされる時が来たな・・・」


声 「こんな所で、何をしようとしている! ハン! ハン・パーテーカル!」

ハン 「ぬっ!?」

アッサム 「ここしばらく、お前の動きが怪しいと思っていたら、案の定だ・・・」

ハン 「アッサム・ハランか!」

アッサム 「シャングリ・ラの廃棄セツルメントなんかに、何の用なのかと聞いている!」

ハン 「聞かなくてもわかってるだろう?」

アッサム 「手に・・・持っている物は何だ?」

ハン 「まだ聞くのか? わかるか? コイツは粛正の・・・、鉄槌だよ」


ナレーション 「独立自治権を勝ち取った宇宙移民者群セツルメントは、ようやく得た平和の中に麻痺し、やがては特権主義社会を生み出し、結局は自らが小セツルメントへの圧政を強いるようになる。時に宇宙世紀255年。各地で起きたセツルメント内紛争は、体制側と、反体制側に別れてその共同戦線を張り、セツルメント間による強大な戦禍を巻き起こしつつあった」



タイトル

「開戦前夜」

− Outbreak of war −



イヴリン 「女の子3人に見送られるなんて、モテモテじゃないの、アベルぅ」

アベル 「そ、そんなんじゃないですよ」

シャヒーナ 「そうね。あまり嬉しくはない見送りだろうし」

アベル 「え、あ」

イヴリン 「まぁね、悪く思わないで。アベル。謹慎残り2日、大人しく出来る?」

アベル 「はい。大丈夫です」

ユーニス 「またお兄ちゃんを閉じ込めるの?」

イヴリン 「ごめんね、ユニ。決まりなの」

ユーニス 「でもっ」

アベル 「大丈夫だよ、心配しないで。ユーニス。・・・シャヒーナ、しばらく頭を冷やしてくるよ」

シャヒーナ 「また、任務で呼び戻されないように祈っておくわ」

アベル 「ありがとう」

ユーニス 「なんでなの・・・、お兄ちゃん・・・」


反省房。

アベル 「ふう・・・。でも、ちょうどいいや。考える時間が、欲しかったんだし・・・。少し、休みたかったし・・・」

アベル 「ちょっと、疲れた、な」


アッサム 「何故だ! ハン!」

ハン 「ちんたらと小競り合いをする事に疲れたんだよ。パーノッド派の連中は権力にしか興味がない。そもそも戦いに勝ち目なんかない。・・・勝った所で、いずれ元の木阿弥だ」

アッサム 「お前個人の考えじゃないだろう!? 誰に吹き込まれた!?」

ハン 「俺の考えさ。だが・・・、このディスクは、クブラカンから受け取ったモンだぜ? あんたの信頼する指導者、クブラカンからな」

アッサム 「俺はクブラカンの考え方が常に正しいなどと思ってはいない! お前は、自分で何をしようとしているのか、わかっているのか!?」

ハン 「知っててやるのと、知らずにやるのとでは、どちらの罪が重いだろうな」

アッサム 「ハン! お前! 俺達の目的は、あくまで宇宙移民者の解放だろう! 誰も好き好んで戦っちゃあいない!」

ハン 「ふン。そもそもの原因は何だ? 宇宙移民が始まったからだ。増えすぎたんだよ! 地球人は!」

アッサム 「元を正せば、お前も地球人だろうが!」

ハン 「こんな危険なモノを宇宙(そら)に放置したままでいられる地球人ほど無神経じゃないつもりだ」

アッサム 「本気なんだな!?」

懐から銃を抜くアッサム。


夢の中。

マシンに乗っているような感覚のまま、生身で戦うアベル。対峙する敵は2人。
アベル 「この動き!? 連携するのか!?」

エナ 「一対一なら2人とも負けちゃったけど」

ミア 「2on2ならどうよ!? アーベルぅ!」

アベル 「くっ」

ミア 「そらそらそらそらっ!」

エナ 「あら、抜け切った?」

アベル 「こんなのっ」

ミア 「あっはっ、うまいうまい! これなら?」

エナ 「どうかしら」

アベル 「うわぁあっ!?」


起き上がるアベル。

アベル 「夢・・・か。でも、あのマシンの動き、ミアとエナにそっくりだった・・・。まるで・・・」

アベル 「それに、あのロゴ・・・。ここから出たら、確かめなくちゃ・・・」


ミア 「ギルバート! なんで邪魔した!?」

ギルバート 「う、しかし・・・っ」

エナ 「よしなさい、ミア。仮にも少佐は上官ですよ」

ミア 「ちっ」

エナ 「舌打ちはやめなさいな、ミア。・・・少佐も、今後は余計な事をしないで下さいね」

ギルバート 「ぐっ」

ミア 「あ〜あ。せっかく、アベルとやれるチャンスだったのになあ」

エナ 「あの動き、やっぱりミアもアベルだと思った?」

ミア 「当ッたり前じゃん! あんなのアベル以外にいる?」

ギルバート 「おいッ!? 知っているのか? お前らッ」

エナ 「ええ。同じ施設で育ちましたから」

ミア 「ザカリアの動きでもカインの動きでもないし、と、なるとアベルっきゃいないじゃん」

ギルバート 「お前らは・・・、一体、何者だ?」


アッサム 「俺は、お前を撃ってでも止める!」

銃を向けるアッサム。

ハン 「なら、俺はあんたを撃ってでもやってやるよ!」

同じく、銃を抜くハン。

お互いが走り出し、遮蔽物を利用しての銃撃戦が始まる。が、撃ち合いの後に、ハンの放った弾丸がアッサムを貫く。

アッサム 「くっ! しまったっ! ぐうっ!」

ハン 「悪く、思うなよ」

動きの止まったアッサムへ、もう一発。

アッサム 「ぬうっ・・・! ハン! 俺なら撃っていい。・・・だから、止めるんだ・・・!」

ハンはゆっくりとアッサムに近付き、その額に銃を向ける。

ハン 「作戦が成功したら、俺は地獄に行くだろう。俺を止められなかった、あんたもな。・・・地獄で会おうぜ」

空間にこだまする銃声。


ルクレール 「リカード大将、お忙しい中、ワタクシのために時間を割いていただきまして有り難うございます」

リカード 「構わんよ、話したまえ」

ルクレール 「ご覧下さい、リカード大将。これが、その比較写真と、声紋その他の分析データです」

リカード 「で。率直に聞こう。ミロ一佐。キミは何が言いたい?」

ルクレール 「申し上げにくい事ですが、シャイロン・チェイ将補は、バルバロイと通じている可能性が、・・・濃厚です」

リカード 「ルクレール・ミロ一佐。キミの父上は大変に優秀な軍人だった。だが如何せん、時代が悪かったのだろうな。戦いがなければ軍は腐敗していく。父上はその腐った軍人が許せず、上官を告訴した」

ルクレール 「私が、父と同じだとおっしゃりたいのですか!? 父が訴えたのは、あくまで内部問題です。ですがもし、将補がバルバロイと通じているというならば、これは完全な背信行為です!」

リカード 「君もまだまだ、若いな。利口だが、狡猾ではない。・・・良いだろう。食事でもしながら話そう。・・・シャイロン将補も交えて、な」


アイキャッチ
アイキャッチ「G−GUILTY」

レストラン。舞台の上には派手な衣装の踊り子もいる。

シャイロン 「遅くなりまして」

リカード 「うむ。構わんよ。先に始めている」

シャイロン 「は」

リカード 「それで話の続きだが、ルクレール・ミロ一佐。キミの父上は何故、上官を訴えたと思う?」

ルクレール 「軍部の腐敗が目に余ったからだと、聞いております」

リカード 「その通りだよ。セグメントは独立以降、ただひたすら地球に飼い慣らされてきた。それが腐敗の原因だ」

ルクレール 「患部には触れるな、とおっしゃっておられるのですか」

リカード 「逆だよ。軍が堕落する原因は二つしかない。戦争が長く続きすぎた状態・・・」

シャイロン 「そして、もうひとつは戦争が起こらない状態・・・」

ルクレール 「父の時代がそうであったと」

リカード 「左様。だから、軍が堕落しないためには、敵と戦争が必要になる」

踊り子の1人が、3人のテーブルへと近付く。

ルクレール 「必要に?」

シャイロン 「紹介しよう、ナディア・デイビス。エクレシアの神聖なる巫女だ」

傍に来ていた踊り子がベールを脱ぐ。

ルクレール 「なッ!?」


TV

セイン 「宇宙難民バルバロイは、あろう事か、セグメント宙域において、非武装の補給艦にまで攻撃を掛けた! これはあきらかなる侵略行為である! 我々はこの事件を容認する事は出来ない! 反逆したバルバロイだけではない! この蛮行を許したセグメントにもその責任が追及されてしかるべきである!」

それを見ているハワード。

ハワード 「やれやれ・・・。わざわざ釘を刺してやったと言うのに、相も変わらずの臭い演技だ。自分が大根だと気付かぬ役者こそが、一番まずい大根だな」

ルーシアス 「この調子だと、進路にある小石の一つまでが宇宙移民者の所為になりそうですね」

ハワード 「ふン。だから、軍人は嫌いなんだ。脳味噌まで筋肉で出来ている。もっとも、そんなゴリ押しが通用するのだから始末に終えん」

ルーシアス 「と言う事は、先生。評議会の派兵承認は下りますか?」

ハワード 「パーノッド派のクーデターだけでは、兵を動かせても軍は動かせん。ルーシアスよ、バルバロイは何のために地球から最も遠いセツルメントで問題を起こしていると思う?」

ルーシアス 「騒ぎで、注目をそちらに向ける必要がある、という事ですか」

ハワード 「そうだ。バルバロイの目的はセツルメントをこの地球に落とすこと。最大質量の落とし物こそが、宇宙移民者による革命のシンボルだからな」

ルーシアス 「そして、それが軍を動かす大義名分となる」

ハワード 「それだけではない。無駄に増え過ぎた人口を減らし、復興のために経済が潤い、更には人民の意志をまとめあげる。・・・これが大局の動かし方だ。・・・学べ、ルーシアス」

ルーシアス 「はい、先生」


ハン 「ようやく、だ。・・・ようやく、始まるぞ」

ハン 「ディスク認識。パスコード・クリア。出力O.K.座標軸x,y,zともに問題なし。・・・目標! ・・・メキシコ・シティー!」

ハン 「Bismillar hirRahman Ah Raheem.富を貪る愚かな地球人どもに断罪を!」


ナディア 「こんばんわ、我々を抑圧するセグメントの軍人さん方」

ルクレール 「エクレシアの予言者が、何故こんな所に・・・!」

リカード 「わかるかね。エクレシアもバルバロイも、最初から存在しないんだよ」

シャイロン 「愚衆は、口先で日々の不満をタレ流すが、何一つとして行動に移そうとはしない。そのお膳立てを、誰かがしてやらない限りはな」

ルクレール 「それではッ・・・、それではこの戦争はッ!」

リカード 「我々が種を蒔き、育んできた戦争だよ」

ルクレール 「彼らは、知らずに戦っているというのですかッ!?」

ナディア 「この戦いは祝福されています。勝利のための聖戦なのです。勝利は約束されているのです。・・・そんな甘い言葉にノセられるが大好きなのよ。なおのこと、弱者はね」

ルクレール 「それでは、パーノッド宙将の逮捕も茶番なのですかッ!?」

リカード 「はは。それは茶番ではない。むしろ、戦争が起きない緩和状態で生まれた派閥・・・、邪魔だからと言って、ただ潰すだけでは脳がない。せいぜい、利用させて貰わねばな」

シャイロン 「事実、バルバロイに加担する戦力としても役立ってくれているよ、彼らは」

ルクレール 「全ては、リカード大将の手の上という事ですか」

ナディア 「ふふ。知ったからには、もう、戻れないわ。従うか、それとも・・・」

シャイロン 「・・・おっと、そろそろ時間です。リカード大将」

リカード 「ふむ、時間か。返事は後で聞こう。今から、面白い見せ物が始まる」

ルクレール 「始まる・・・?」

シャイロン 「ニュースを」


TV

リポーター 「この映像をご覧下さい! この禍々しい姿が見えるでしょうかッ!?」

リポーター 「宇宙移民者解放戦線『エクレシア』が、ついにセツルメント降下という蛮行に及んだのです!」

リポーター 「届けられた声明によると、実行犯はバルバロイ過激派ハン・パーテーカル容疑者となっており・・・」

シャヒーナ 「・・・ハン!? どうして!?」

リポーター 「現在、議会軍は緊急出動し、降下するセツルメントを阻止するために作戦を展開中です! 議会の発表によりますと・・・」

シャヒーナ 「ハン・・・、地球に住む人を殺したって、何の解決にもならないのに・・・。むしろ、このままじゃ弾圧が厳しくなる一方よ。・・・どうしてなの、ハン」


地球へと迫り来るセツルメント。

それを迎え撃つために基地から発進する議会軍。


イヴリン 「とうとう始まったわ、アベル君。・・・エクレシアの過激派が廃棄されたセツルメントを、地球へ向けて降下させたわ」

アベル 「本当なんですか!? イヴリンさん! ユーニス!」

イヴリン 「ええ」

ユーニス 「ホントよ。艦長さんや皆が慌ただしくしてる」

アベル 「そんなっ! セツルメントなんか投下したら、地球の人は沢山死んじゃうんですよ!?」

イヴリン 「苛立たないで、アベル。たとえ、あなたが今動けたところで、こんな宇宙の果てから地球まで飛んで、間に合う訳じゃないわ」

アベル 「だけどっ! そんなっ、セツルメントを落とすために、僕らは・・・! そんな事のために戦ってきた訳じゃないよ・・・っ!」

ユーニス 「お兄ちゃん・・・」

イヴリン 「・・・大丈夫よ。地球にはセツルメント降下の防衛手段があるわ」

アベル 「これじゃ、戦争は広がって、どんどんと広がって・・・また、沢山の人が・・・」


ハワード 「始まった、か」

ルーシアス 「先生、降下は成功しますか?」

ハワード 「地球には、セツルメント降下防御衛星のヘパイストスとアリスタリウスがある。議会軍も出動する。降下は、一割程度成功させられる」

ルーシアス 「降下先はメキシコ・シティーだと発表されていますが・・・」

ハワード 「真っ直ぐに落ちたら、という前提ではな。どうせ、ヘパイストスとアリスタリウスがセツルメント破壊を口実にその軌道を変える。この時期なら、脳天気な政治家がバカンスを楽しんでいる場所が近い・・・」

ルーシアス 「・・・ジャマイカですか」

ハワード 「人口抑制のついでに、不要な役人を消しておけば一石二鳥という訳だ」


いよいよ地球に近付くセツルメント。

ハン 「タダで、とは言わん。俺の命はくれてやる! 地球まで届いてくれ!」

稼働するヘパイストスとアリスタリウスから放たれた強力なレーザーが、セツルメントを貫く。

ハン 「宇宙移民者からのプレゼントを受け取れえぇぇぇぇっ!!」

セツルメントは大きく破壊されるが、残った部分が地球への降下を続ける。


シャヒーナ 「ハン・・・!」


セイン 「よし、ヘパイストスとアリスタリウスは予定通りに稼働したな?」

兵士 「はい。現在の所、計算外の破片は35片。ほとんどは大気圏で燃え尽きるため、落下するのは予定より2つ多い、5つとなっております」

セイン 「全力で対処に当たらせろ。ただし、B片には手を出すなよ。わかってるな」

兵士 「はッ」

セイン 「空の上から鉄の塊が降ってくるなど、地球人にとっては雷と同じ、天災のようなモノだ。防ぎきれなかった事を責める輩などいない。その気になれば、未然に、完全に防ぐ事さえもが可能だったとしてもな」


分裂したセツルメントの破片が大気圏を突破してくる。

それを迎え撃つ議会軍の軍勢。

幾つかはその破片の破壊に成功し、また、幾つかの破片に押し潰される議会軍。

そして、中でも一際大きな破片が、ジャマイカへと落下。大爆発を起こす。


セイン 「いよいよ・・・。いよいよだ。待ちに待った戦争が始まるぞ」

ナレーション 「この夜、エクレシアのセツルメント降下が発端となり、地球議会・セグメント連合軍と、エクレシア・パーノッドの同盟は全面戦争へと突入する。時に、宇宙世紀255年、11月。体制派と反体制派は、大きく分断された」

次回予告

ナレーション 「大戦は、ついに始まった。弱小勢力であるエクレシアを守るためには、航路を塞ぐ要を取り除かねばならない。アベルたちが挑むのは、難攻不落の宇宙要塞オケアノス。恐怖の主砲をかいくぐり、アベル達はオケアノスを落とせるのか。 次回、『混沌の要塞(前編)』 Gの鼓動が、今、目覚める」

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