回収船員 「次、77864、マーティン・スコセッシ」

囚人 「はいよ」

回収船員 「最後! 77851、サミュエル・ジン・・・」

ケネス 「ジン・ブンチェンでーす」

回収船員 「ちっ」

回収船員 「よし、全員いたか?」

回収船員 「囚人28名、確認しました」

回収船員 「おーし、出発するぞ」

ケネス 「チョロいチョロい」

回収船員 「何か言ったか?」

ケネス 「あの光は?」

回収船員 「あぁ、この護送船を襲った海賊とやらが、ナニを思ったのか暴れてるらしい。こんな所を襲ったって、燃料も食料もありゃしねえってのにな」

ケネス 「へぇ・・・」


布をかぶせられたスレッジとクロスボウ。

バーナバス 「こんなに脆いのが警備だって言われてもなァ」

パーチ 「・・・面白くないな」

バーナバス 「あン? 文句言うな。任務だろ」

パーチ 「こんな程度の警備マシン、100機でもお釣りが来る」

バーナバス 「なら、潜入任務の方が良かったか? ・・・油断するなよ」

パーチ 「退屈はしてるが、油断はしてない」

バーナバス 「ヒャッハハ。なら、賭けるか?」

パーチ 「乗った。警備マシンのパト・ランプだ。録画は15秒後から開始。報酬は・・・」

バーナバス 「次の慰安所(コンフォート)、全額オゴリでどうだい?」

パーチ 「お前が好きなだけじゃないか」

バーナバス 「嫌なら、負けなきゃイイだろ」

パーチ 「気に入らないけど、負けるのはもっと気に入らないな」

バーナバス 「かーっ、さすがにロングレンジが有利ってか」


AJ 「派手にやってるな」

イヴリン 「ちょっと、壊し過ぎじゃありません? 辿り着けなかったら元も子もないですよ」

AJ 「まぁ、この宙域ならエンジン停止でも救難信号を捕まえてくれるさ」

イヴリン 「エンジンが爆発しても?」

AJ 「結構。発見が早くなる」

イヴリン 「時々、長官って冗談か本気かわからなくなりますよね。・・・揺れますよ」

アベル 「大丈夫ですよ。イヴリンさんの腕前なら・・・、と信号受信しました」

AJ 「上出来だ。こちら、アレックス・ダグラス。民間船だ。戦闘の流れ弾を浴びた。緊急収容願う」

回収船員 「かーっ、こっちも定員オーバーだよ」

AJ 「エンジンが悲鳴を上げてる。どうにかならないか?」

回収船員 「よし。エンジンを停止してくれ。ワイヤーで牽引する」

AJ 「了解。助かった。恩に着る」


ナレーション 「独立自治権を勝ち取った宇宙移民者群セツルメントは、ようやく得た平和の中に麻痺し、やがては特権主義社会を生み出し、結局は自らが小セツルメントへの圧政を強いるようになる。時に宇宙世紀255年。各地で起きたセツルメント内紛争は、体制側と、反体制側に別れてその共同戦線を張り、セツルメント間による強大な戦禍を巻き起こしつつあった」



タイトル

「大脱走(前編)」

− The Great Escape I  −



アベル 「イヴリンさん。前の船って、囚人を運んでるんですよね」

イヴリン 「多分ね。乗ってるのは、前回、出撃した時の囚人だと思うけど?」

アベル (撃つべきだったんだろうか? あの時)

AJ(回想) 「アベル。私は以前、今、君に助けられる人を助けろ。そして、これから助けられる人のために生き延びろと教えた。今日は、もう一つだ。どうしても助けられない人を減らせ」

アベル (助けられない人を、・・・減らす)

イヴリン 「どうしたの? アベル」

アベル 「あ。いえ、あの・・・、あの中に、僕らの仲間になってくれる人がいるかも知れないんですよね」

イヴリン 「それはどうかしら。絶対的民主主義のこの世の中、政治犯は多いわけじゃないわ。現実を見れば、単なる犯罪者がほとんどだからねぇ。・・・着くわよ。席に戻って」

アベル 「はい」


アベル 「それ、何のリストです?」

AJ 「ああ、今回救出する政治犯さ。エド・オセッコ、アヴドゥル・サンティーン、シィテスパ・・・エクレシアの英雄たちだ」

アベル 「その人たちを助けられれば、仲間が増えるんですね」

AJ 「ああ」


ケネス 「そろそろ、いいかな?」

回収船員 「ん?」

ケネス 「ごめんよ」

ケネスに付いていた手錠が外れ、回収員を殴り飛ばす。

回収員 「ぐぁっ」

ケネス 「悪いね」

逃げ出すケネス。突然の事態に、便乗する囚人たち。

警備員 「しゅっ、囚人が逃げたぞー!」

ケネス 「はい、プレゼント」

閃光弾。

ケネス 「はーい、皆さんも頑張って逃げてねー」

ケネス 「んで、俺ァ、囚人じゃねぇんだわ。お尋ね者ではあるけどな」

街側へ逃げる囚人たち。ケネスだけが港側へ。


港側のアベルたち。

アベル 「何です?」

AJ 「囚人どもが脱走を計ったらしいな」

アベル 「えっ!? 止めなきゃ」

AJ 「今の我々は避難してきた民間人だよ。気持ちは分かるが、大人しくしているんだ」

アベル 「っ・・・! でも・・・」

AJ 「アベル」

アベル 「・・・はい」


アベルたちのトラックの下へ忍び込むケネス。


警備員 「すみませんでした。こんな所で足止めを食わせてしまいまして・・・」

AJ 「アクシデントは付き物だよ。君の責任じゃない」

警備員 「ははっ、そりゃどうも。逃げた囚人の半数以上は捕縛しましたが、まだ逃げてるのがいますから、気を付けて下さいよ」

AJ 「有り難う」


イヴリン 「何とか、無事にソードケインは持ち込めましたね」

AJ 「ああ。作戦自体はビハインドだけで充分なんだが、海賊の動きが気になる」

イヴリン 「いくらなんでも、隠密行動にヴォーテックスは使えませんしね」

AJ 「悪いね。パイロットではなく運転手をさせて」

イヴリン 「あら。任務をいただいた時は、ボディ・ガードだと記憶してますけど?」

AJ 「兼任さ。キミの嫌いなキャロラインが、艦長と私の愛人を兼ねているようにね」

イヴリン 「やっぱり長官って、冗談と本気の区別が付きかねます」

アベル 「うわあっ、凄いっ」

AJ 「どうした? アベル」

アベル 「刑務所って聞いてたから、もっと殺風景な場所を想像してたんですけど・・・」

AJ 「無理もないな。だが、ここはセツルメント群最大の刑務所だ。そこに従事している従業員の数も半端じゃない。街としても昨日している。それに、服役囚のお陰で税金は格安だし、今ではプリズン自体が観光産業にも手を出してる」

アベル 「へぇ・・・。もう少し、外を見てます」

イヴリン 「ふふ。悩んでるのかと思えば」

AJ 「Gほどのマシンのパイロットだ。精神力も疲弊する。ある程度の緩急は必要だな」

イヴリン 「・・・あたしもGのパイロットなんですけどねぇ」


アベル 「あそこよりも、豊かなセツルメントなんだな・・・」

アベル 「・・・!? えっ、うわっ!?」

ケネス 「よっ、少年。ちょっくら世話になったぜ」

アベル 「・・・今の人、・・・脱走犯?」

AJ 「アベル、今度は何だ?」

アベル 「えーと、あの・・・、」

イヴリン 「どうしたの?」

アベル 「どうやら、脱走犯が車の下に潜んでたみたいで・・・」

イヴリン 「あらら」

AJ 「脱走劇のダシに使われた訳か。まったく、したたかな連中だよ」

アベル 「どうしましょうか?」

AJ 「ふむ。何も見なかったし、何も気付かなかった事にする方が、面倒はなさそうだ」

アベル 「・・・は、はい。」

アベル (でも、あの声・・・)


ケネス 「あいててて。ちょっと格好付けすぎた・・・」

ケネス (しかし、今の声・・・)

ケネス 「ん? おーい、街まで乗せてってくれないかー?」


アイキャッチ
アイキャッチ「G−GUILTY」

イヴリン 「着きますよ、長官」

AJ 「ご苦労。2人はここに残っててくれ」

イヴリン 「よろしいんですか? おひとりで」

AJ 「単身赴任の身だからな。ひとりが寂しいって歳でもない」

イヴリン 「お気をつけて」

アベル 「何です? 単身赴任って」

イヴリン 「奥さんと子供をおいて、働きに出る事よ」

アベル 「へえ。・・・・えっ? AJって・・・」

イヴリン 「地球に奥さんと子供がいるの、知らない?」

アベル 「・・・はい、知りませんでした」

イヴリン 「余計なこと、言ったかしら」

アベル 「な、なんとなく」

イヴリン 「アベル〜。お姉さんがお小遣いあげるから、今言ったことは忘れてくれるかしら」

アベル 「大丈夫です。誰にも言いません」

イヴリン 「誰にも言わない、じゃなくて忘れなさい。いいわね」

アベル 「こんなに要りませんよ」

イヴリン 「んふ。このお小遣いはあげるから、少し戻って、食事でも買ってきて。あたしと長官の分もね」

アベル 「は、はい」


市長 「はじめまして。わたくしが当セツルメント市長のマクダネルです」

AJ 「こちらこそよろしく。セグメント評議会特務監査官のダグラスです」

市長 「遠い所をようこそ。おい、お茶を」

AJ 「お気遣いなく。手短に行きましょう。まず、この部屋の盗聴と記録についてお話しいただきたい」

市長 「そう言ったご用件でしたら、別室にご案内いたします」

AJ 「これはこれは。話がわかりそうで何よりだ」

市長 「誤解しないで頂きたい。囚人の蜂起という非常事態に備えているだけです」

AJ 「心得ています」

市長 「おい、お茶は後で応接室へ。・・・それで、セグメント評議会のお偉方が、こんな牢獄へ何の御用ですかな」

AJ 「こちらの持っている情報によると、このリストの政治犯が、このプリズンに収容されていますね」

市長 「エド・オセッコ、アヴドゥル・サンティーン・・・、ふむ。いかにも」

AJ 「その身柄を我々にお譲りいただきたい」

市長 「ははは。これはまた、安くありませんなぁ」

AJ 「報酬は、こちらのデータを抹消・・・です」

市長 「なんですかな? これは」

AJ 「とぼけるのは結構だが、相手を選んでやるべきだな。この収賄をリークされれば、あなたは市長から囚人へ転落だ。ご自身が自慢する監獄を体験するのも乙かと思いますがね」

市長 「ぐっ・・・」

AJ 「あなたが拒もうと、私の部下はここを強襲します。報奨の高い今のうちに快諾する方が利口だと思いますがね」

市長 「・・・リストが2枚に分けられているのは何故だ?」

AJ 「強襲の混乱に乗じて、パーノッド派2名とエクレシア1名は解放します」

市長 「こちらの8名は」

AJ 「部下の強襲で、流れ弾が収容棟に当たってしまうのです。偶然ね。・・・エクレシアの英雄たちは、死んでこそ崇められる。エクレシアの結束を固めるためには、安い命です」

市長 「パーノッド派は、そこまでやるのか」

AJ 「ご了承願えるかな。・・・謝礼も出る」

市長 「断っても得はないな」

AJ 「それでは、このリストに上げられた3名をF区へ。残る8名をK区へ移送願います」

市長 「ここへの攻撃は無用に願うよ」

AJ 「承知してますよ」


カフェ

画面にアクセス拒否の文字

ケネスが使うモバイルPC

ケネス 「かーっ、さっすがに監獄だけあって、コンピュータのセキュリティも堅いわ。囚人のリスト入手だけで手一杯ってか」

ケネス 「このリストから反体制派の重鎮を見つけろっての? 嫌ンなるぜ。ん・・・?」


店員 「4分ほどお時間いただきますけどよろしいですか?」

アベル 「はい」

店員 「それでは、この番号札をお持ちになってねお席の方でお待ち下さい」

  アベル 「はい」

ケネス 「よう、少年」

アベル 「あっ・・・あなた!」

ケネス 「さっきは、どーも」

アベル 「あっ、あなた! もがっ! ふがっ!」

ケネス 「シーッ! 言っとくが俺は脱走犯じゃねえぞ」

アベル 「じゃあ、なんで口を押さえるんですか!?」

ケネス 「どっちかというと俺は侵入犯。無実の罪で捕まってる友達を助けに来たんだよ」

アベル 「し、信用できませんよ」

ケネス 「そう言うなって。この刑務所には、反体制派って事だけで捕らえられてる政治犯ってヤツが何人もいる。そいつらを助け出したい」

アベル 「え、エクレシアのメンバーなんですか?」

ケネス 「そんなトコロだ。協力する気になってくれたかい?」

アベル 「じゃあ、助けたい人の名前を教えて下さい」

ケネス 「アヴドゥル・サンティーン、シィテスパ、オイロ・アビロイド、エド・オセッコ、少なくとも、この四人は助けたい」

AJ(回想) 「エド・オセッコ、アヴドゥル・サンティーン、シィテスパ・・・エクレシアの英雄たちだ」

アベル (AJの言ってた名前と同じだ・・・)

ケネス 「どうした?」

アベル 「協力する気になったんですよっ」

ケネス 「おおっ? 感謝するぜ、少年」


パーチ 「11個、と」

バーナバス 「汚ぇぞ! 俺の獲物を!」

パーチ 「勝負はパト・ランプの数だろ。撃墜数じゃない」

バーナバス 「ちぃっ、6点もリードされてるじゃねえか」

パーチ 「俺の勝ちって事で終わっていいのかな?」

バーナバス 「っかぁッ! 冗談じゃねえっ! 警備の連中、もっと出動して来いよぅ」


キャロライン 「何をやってるの! あなた方は。長官たちの侵入はとっくに終わっています。撤退してください」

パーチ 「だとよ、バーナバス」

バーナバス 「く〜っ! ヘイヘイ、神様。そりゃナイぜ・・・」

キャロライン 「遊びじゃないんですよ、任務は。直ちに撤退しないと厳罰がおりますよ」

バーナバス 「へいよ。パーチ! 今回は負けといてやるぜ!」

パーチ 「今回も、だろ。今のところ4連勝だ」

バーナバス 「ふン!」


店員 「お待たせしました」

ケネス 「サンキュッ。あン? こんなに食うのか?」

アベル 「知り合いが待ってるんです」

ケネス 「そりゃ悪いコトしたな。で、今説明したとおり、現在、アクセスできる情報は、収容者11万人の名前だけだ。それもファスト・ネームはイニシアル表記。この中から、コレに該当する可能性のある名前をピックアップして欲しい。2人なら倍の労働力だろ、少年」

アベル 「少年じゃありません、アベルです」

ケネス 「Ok.アベル。俺はケ・・・、ジン・ブンチェンだ」

アベル 「じゃあ、ジンさん。提案があります」

ケネス 「ん?」

アベル 「このリストから目で追って探すんじゃ、時間が掛かりすぎます。コンピュータに探させましょう」

ケネス 「そいつが出来れば、とっくにそうしてるよ。管理者以外にはそれが出来ないシステムになってる。ファイルも一枚ずつのカードになってて一括して落とせないしな」

アベル 「このカードファイルを連結させればいいんですよ」

ケネス 「なに? そんな事が出来るのか?」

アベル 「アクセスできるなら、コンピュータに、繰り返しカードファイルへアクセスして検索を掛けるように命令するんです。このオプションを・・・」

ケネス 「アッタマいいな、少年!」

アベル 「アベルです」

ケネス 「いいから、早く実行してくれ」

アベル 「はい」

ケネス 「おっ! おおっ、ちゃんと動いてるじゃねえか」


イヴリン 「はぁ・・・。おっそいなあ、長官もアベルも。何やってンだろ・・・」

イヴリン 「何やってンだろ、アタシも・・・」

イヴリン 「お腹減った・・・」


次回予告

ナレーション 「それがケネスだと知らず、協力するアベル。作戦阻止を企むケネスと、暗躍するAJの思惑は如何に。そして、作戦決行の時間がおとずれる。 次回、『大脱走(後編)』 Gの鼓動が、今、目覚める」

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